膝関節痛(左内側痛・腫脹を伴う)の治療例から
09th 12月 2008
「主訴」 左膝関節内側痛(腫脹を伴う) 40歳代の男性
「問診」 1ヶ月前くらいから左膝に違和感を感じていたが、そのままにしておいた。そんな中、バレーボールの練習があり、練習中に少し重い感じがしたが、練習の間は問題なく痛みもなく動けていた。しかし、翌朝左膝に強い痛みが出、内側に熱を持った腫れが出ていた。起き上がって足を突いてみると、痛みのため足がつけない状態になっていた。仕事にも行けない状態が続き、痛みも一向に引かず、整形外科には行っているがあまり進展しないため、当院に来院。膝をまっすぐに伸ばすことが出来ない。慢性腰痛あり。右膝に慢性的な痛みあり。
「切診」 主訴部は熱を持ち、腫脹している。足は冷えていて、少し湿りかげん。脾経上に痛みあり。
「腹診」 大腹にややかんげとざらつきあり。小腹(肝の見所に圧痛あり。 「脉状診」 沈 虚
「比較脉診・証決定」 肺虚肝実 右適応側(主訴の左・腹部の状態から)
「本治法」 右太淵・太白に補法(難経69難から) 左中封に補中の瀉法 「陽経の処理」 左豊隆・光明 右外関に補中の瀉法
「標治法」 亜門・大椎・至陽・命門(脊際の虚実の見極めが大切)・仙腸関節の虚実の処理 左ムノ部の動脈拍動部
主訴腫脹部のふもと(虚実の境目)に補鍼
「使用鍼」 補法 銀1寸2番 瀉法・標治法 銀1寸3番 コバルト1寸1番
「臨床のポイント」
1.主訴部は熱を持ち、腫脹しているため深い鍼は避け、鍼数はきわめて少なくする。(虚実の境目に注目)
2.ムノ部の動脈拍動部への刺鍼が大切です。(膝の内側に影響を与えます) 仙腸関節の左右差の調整
3.痛みが強く、歩けないため奇経や子午調整が必要です。
「解説」
本治法については、基礎的な知識が必要ですのでここでの解説は控えます。(五十肩の治療例に同じ)
標治法においては、主訴部に刺鍼したくなるものですが、この部分への深い刺鍼はかえって痛みをまし、回復を遅らせます。
更に、主訴部のみにとらわれ、体全体を見なくならないように注意する必要があります。当然、体幹への刺鍼が大切です。つまり全体を見ながら主訴部を考え、免疫力のアップのために、上下左右の虚実の調整が大切です。その中でも、ムノ部(動脈拍動部・仙腸関節)への虚実を踏まえた刺鍼が大切となります。
治療経過は、初回の治療でまっすぐに伸びなかった左膝は、翌朝にはまっすぐに伸ばせるようになっています。
週3回の治療で仕事に復帰できるようになっています。
主訴部(患部)のみにとらわれないように注意しましょう。
脊柱管狭窄症 (50歳代の男性)
09th 12月 2008
-脊柱管狭窄症のため5分も歩けず、整形外科で手術を予定されていました-
10年近く前から腰に違和感を感じておられましたが、2・3年前からだんだんと歩いていると腰と足に痛みを覚えるようになりました。次第に歩行時間が短くなり、5分も歩けないようになってしまいました。
整形外科を受診しておられましたが、手術の必要性を感じ、整形外科で有名な病院を紹介していただいて受診されたそうです。その結果、本年の年明け早々に手術を受けられるように手術日を決めたそうです。
その後、その方のご家族が当院に治療に来られておられるため、「一度治療を受けてみてはどうか」と言われ来院されました。
初診は、昨年の11月頃でした。初診時は、腰部のみが凍りの上をつるっとすべるような肌触りで、その他は皮膚にざらつきが見受けられました。「いかにも腰がわりいなあ~」という印象が強かったです。
所定の治療を終え、水分の取りすぎ、冷たいもの等からだを冷やすものの飲食を慎むようお願いをし、初診の治療を終えました。また、からだの様子から週2回の治療を要することをお話し、定期的な治療の必要性をお伝えしました。
週2回の治療を継続していくと、次第に腰と足の痛みが楽になり、治療開始から一月ほどたった頃、「手術をしなくとも治るかもしれないと」感じられ、予定していた手術をキャンセルされました。その後鍼治療のみに専念されました。
治療継続の結果、3ヶ月ほどしてくると当初5分程度であった歩行時間は30分にまで延びていました。腰部の皮膚の感じも大きく変わり、背中全体が同じような艶のある状態へと変化していました。半年ほど過ぎた頃には、日常生活に殆んど支障にない状態になっておられます。
現在も体調管理の目的で来院されておられます。
このようなからだの内部、脊柱内の変化による疾患でも鍼治療によって回復させていくことができるのです。これは、鍼をすることによって人間が本持っている免疫力・自然治癒力を本来の姿に戻していくことの結果なのです。鍼をするということは、その回復力の手助けをするに過ぎませんが、このことが非常に大切なのです。人間の持っている治癒力は、このような疾患でも治していけるパワーを持っています。しかし、一端バランスを崩して発症した疾患はご自分の力だけでは治せなくなっています。そのときにこそ、鍼治療の手助けを体験していただければ幸いです。